「春望」展批評 (美術手帖 web版)|2025.3.17

Exhibition Review|グループ展「春望」 2024.12.7-22

2024年12月に開催したグループ展「春望」について、京都国立近代美術館 特定研究員 渡辺亜由美氏によるレビュー記事がウェブ版美術手帖に掲載されました。ぜひご一読ください。

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近くて遠い、私的な経験と普遍性とのあいだを行き来する。渡辺亜由美評「春望 Gazing at Spring」

https://bijutsutecho.com/magazine/review/30366

写真提供: コダマシーン

(一部抜粋)

「〔前略〕 谷川美音〔……〕は『風景』を通じて自然と人間との距離を見つめる。彼女〔……〕の『風景』とは、自身の感覚に根ざした世界を反映する鏡である。

谷川は、流動的なドローイングの線を立体化し、漆を施した彫刻を制作することで知られる作家だ。水色や黄色、緑に赤といった爽やかな色使いや、一瞬の動きを結晶化したような造形は非常に軽やかだ。本展では、アイスランドの雄大な滝にインスピレーションを受けた《foss》(2024)をはじめ、散歩中に目にする野花、『霎時施(こさめときどきふる)』秋の空気、甘雨と呼ばれる春先の雨といった、身近な自然と触れるなかで育まれた時間や感覚に基づく作品が並んだ。

谷川の作品には、漆という自然素材に宿る時間と、漆を塗っては削り塗っては削りを繰り返して色やかたちを整えていく作家自身の制作の時間が、境界なく共存している。谷川は漆という伝統的な素材と技法の力に敬意を払いながら、過ぎ行く自然の表情や瞬く間に消えてしまう自身の感覚にかたちを与えて、風景として私たちに示してくれる。

〔中略〕

『春望』という本展のタイトルは、中国唐代の詩人・杜甫の詩に由来する。『国破れて山河あり』から始まるこの詩は、戦乱で荒廃した都市・長安の景色と、変わらぬ春の自然とを対比させながら、人間社会の不条理や家族への追慕をうたったものだ。この詩のように、私的な経験を普遍化する態度は5名の作家に共通する。〔……〕谷川の彫刻は彼女が日々を過ごすなかで感じた季節の表情や、移り変わる時間をとらえることから出発する。近くて遠い、小さくて大きいというスケールの往還が5名の作品や会場全体から感じられたように、本展が示したのは、小さく近い私的なものと、大きく遠い普遍的なものとのあいだを行き来する人間の想像力だ。 〔後略〕」

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